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株式会社オブライト
Business DX2026-07-15

「あの人しか触れないシステム」の引き継ぎ対策 — 担当者の退職で業務を止めないために

社内システムの属人化リスクと、担当者退職前後で対応が変わる引き継ぎ資産チェックリスト、内製維持・外部保守・作り直しの選択肢を中立的に比較する。


「あの人しか触れないシステム」とは

「あの人しか触れないシステム」とは、特定の一人(社内の情報システム担当者、あるいは退職した元社員や個人の知人エンジニアなど)だけが仕組みや操作方法を把握しており、他の誰も保守や改修ができない状態にあるシステムを指す。中小企業では専任のIT部門を持たないことが多く、Excelマクロや自作の業務システム、外部委託先とのやり取りまで含めて特定の個人に依存するケースが少なくない。この記事では、担当者の退職によって業務が止まるリスクを整理したうえで、退職前後で取るべき対応の違いと、引き継ぎ資産の具体的なチェックリスト、そして今後の運用体制(内製維持・外部保守・作り直し)を中立的な視点で比較する。

属人化が生まれる背景

属人化は意図的に作られるものではなく、多くの場合は結果として生まれる。立ち上げ当初は少人数でスピード優先の開発を行い、ドキュメント整備が後回しになる。担当者が異動や退職を経験しないまま長期間同じ人物が運用を続けると、その人の頭の中にしか存在しない「暗黙知」が積み重なっていく。加えて、外部の個人事業主やフリーランスに開発を依頼し、その後は連絡が取りにくくなるケースもある。人手不足に悩む中小企業では、保守要員を新たに確保する余力がなく、結果として一人の担当者に依存し続ける構造が固定化しやすい。人手不足と業務の属人化は表裏一体の課題であり、中小企業の人手不足とシステム運用の関係でも取り上げている。

担当者退職で顕在化するリスクの構造

属人化そのものは平常時には表面化しにくい。リスクが顕在化するのは、退職・休職・体調不良など「その人が動けなくなった瞬間」である。パスワードやサーバーの管理者権限が個人のメールアドレスに紐づいていて引き継げない、ソースコードの所在が不明、業務手順が口頭伝承のみで文書化されていない、といった状態では、退職後にちょっとした改修すら誰も着手できなくなる。

- アクセス不能: 管理者アカウント・ドメイン・サーバーの認証情報が個人に紐づき、退職後にログインできなくなる
- 改修停止: ソースコードや設計資料が手元になく、不具合や仕様変更に対応できない
- 判断停止: 「なぜこの仕様なのか」という背景が分からず、修正の可否を判断できない
- 費用の見えない増加: 引き継ぎ資産が乏しいまま新しい担当者や外部業者に依頼すると、現状把握だけで想定外の工数がかかる

事業継続の観点では、こうした属人化リスクはIT-BCP(事業継続計画)の一部として捉えると整理しやすい。基本的な考え方は中小企業のIT-BCP入門でまとめている。

退職前と退職後、対応の違い

退職前に着手できる対応と、退職後に初めてできる対応は大きく異なる。退職前であれば、担当者本人に確認しながら資産を洗い出せるため、正確な情報を得やすい。一方、退職後は本人の協力を得られない前提で、残された記録やアクセス権限から手探りで復元する作業になり、時間もコストもかかる。

時期できること難易度・コスト
退職の意思表示後(在職中)本人へのヒアリング、ドキュメント化、権限の棚卸しと移管比較的低い(本人の協力を得られる)
退職直後(引き継ぎ未完了)残存資料の確認、パスワードリセット申請、外部業者への現状調査依頼中程度(推測や再構築が必要)
退職から時間が経過した後ソースコード解析、システムの再設計・作り直しの検討高い(ゼロからの棚卸しに近い)

このように、対応に着手するタイミングが早いほどコストと不確実性を抑えられる。退職の意思表示を受けた時点、あるいは長期休職の可能性が見えた時点で、引き継ぎ作業に一定の期間を確保することが望ましい。

内製維持・外部保守・作り直しの比較

引き継ぎが完了した後、今後の運用体制をどうするかは企業ごとに事情が異なる。主な選択肢は「新しい担当者を採用し内製を維持する」「外部の保守会社に運用を委託する」「老朽化が進んでいる場合はシステムを作り直す」の三つに大別できる。それぞれに向き不向きがあり、一律の正解はない。

選択肢メリット留意点
内製を維持(新担当者採用)業務理解が深まりやすい、意思決定が早い採用・育成に時間がかかる、再び属人化するリスクがある
外部保守に委託専門知識を持つ複数人で対応でき属人化しにくい委託費用が発生する、業務知識の引き継ぎに一定の期間が必要
システムを作り直す老朽化した基盤を刷新でき長期的な保守性が上がる初期投資が大きい、移行期間中の業務調整が必要

保守会社への委託を検討する際は、既存のシステムをそのまま任せられるか、開発したベンダー以外でも対応可能かを見極める必要がある。委託先の切り替えを検討する場合の論点は開発ベンダーの乗り換えを検討する際の視点、保守運用全般の考え方はシステム保守運用の完全ガイドで詳しく解説している。

引き継ぎ資産チェックリスト

- ソースコード: リポジトリの所在、最新版かどうか、バージョン管理の有無
- サーバー・インフラ情報: ホスティング先、ドメイン管理者アカウント、SSL証明書の更新方法
- パスワード・認証情報: 管理者権限のID、二要素認証の設定、パスワード管理ツールの共有状況
- 手順書・設計資料: 運用マニュアル、障害時の対応フロー、システム構成図
- 外部委託先の連絡先: 開発を担当した業者・個人事業主の連絡先と契約内容
- 費用・契約情報: サーバー費用、ライセンス費用、保守契約の更新時期

よくある質問

退職者に引き継ぎを断られた場合はどうすればよいか?

契約上、業務で作成した資産(ソースコードや設計資料)は原則として会社に帰属する。ただし個人アカウントでの管理やクラウドサービスの契約名義が本人になっている場合は、法的な整理が必要になることがある。労務や契約に関わる論点は社会保険労務士や弁護士など専門家に相談することが望ましい。

引き継ぎ資料が全くない場合、どこから手をつければよいか?

まずサーバーやドメインの管理画面へのアクセス権限を確保することを優先する。その上で、稼働中のシステムから外部の技術者に現状調査(ソースコードの解析や構成の可視化)を依頼し、全体像を把握するところから始めるのが一般的な進め方である。

一人の担当者に依存しない体制にするには何が有効か?

唯一の正解はないが、複数人で情報を共有する仕組み(ドキュメントの定期更新、権限の複数人管理)や、外部の保守会社と契約して継続的に状況を把握してもらう方法などが選択肢として挙げられる。自社の規模や予算に応じて検討するとよい。

まとめ

「あの人しか触れないシステム」は、平常時には便利に見えても、退職という一つの出来事で一気にリスクが顕在化する。重要なのは、退職の兆候が見えた時点でできるだけ早く資産の棚卸しに着手することと、今後の運用体制を内製・外部委託・刷新のいずれにするか、コストとリスクの両面から検討することである。日頃からの備えについてはシステム保守運用の完全ガイドも参考にしてほしい。

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