本文へスキップ
株式会社オブライト
Business DX2026-07-28約7分で読めます

会社のアカウント・パスワード管理と多要素認証 — 中小企業が最初にやる3つの対策

IT担当がいない会社でも実行できる、アカウント・パスワード管理と多要素認証(MFA)の始め方を解説。守るべきアカウントの優先順位、パスワード管理ツールの費用目安、MFAの方式別の強さと選び方、使い回し・共有アカウント・退職時の落とし穴、導入チェックリストまで中立的にまとめます。


アカウント管理とは、会社で使うサービスのIDとパスワード、そして「本人であることの確かめ方」を会社として決めて運用することである。中小企業の情報漏えいは、高度な攻撃よりもパスワードの使い回しと、退職者のIDが生きたままだったことが入口になるケースが多い。ここでは、専任のIT担当がいない会社が最初に取り組むべき3つの対策を、費用目安と判断基準つきで整理する。

なぜパスワードだけでは足りないのか

パスワードは「本人しか知らないはず」の情報に依存している。だが実際には、別のサービスから流出したIDとパスワードの組み合わせが名簿として出回り、それを他のサービスに片端から試す手口が一般化している。1つのパスワードを複数サービスで使い回していると、まったく関係のないサイトの流出が、自社の業務メールやクラウド会計への侵入につながる。

- 使い回し: 1か所の流出が全サービスに波及する
- 共有アカウント: 誰が操作したか追えず、担当が変わってもパスワードが変わらない
- ブラウザ任せの保存: PCを持ち出した・故障した時点で引き継ぎも復旧もできない
- 付箋・共有Excel: 退職時に回収できず、更新されないまま古い情報が残る

これらは「気をつける」で解決しない。仕組みで防ぐ必要がある。セキュリティ対策全体の優先順位は中小企業のセキュリティ 最初の一歩で整理しているので、あわせて確認したい。

対策1: 守るアカウントに優先順位をつける

全アカウントを一度に厳格化しようとすると、現場が回らなくなって形骸化する。まず「乗っ取られたときの被害が大きい順」に並べ、上から手を打つ。

優先度アカウントの例乗っ取られたときの被害
最優先経営者・経理のメール、ネットバンキング、法人カード送金・請求書偽装による直接的な金銭被害
Microsoft 365 / Google Workspace の管理者、クラウド会計・給与全社メールと人事・給与情報への到達
自社サイト・ECの管理画面、ドメイン・DNSの管理サイト改ざん、ドメイン乗っ取りで復旧困難
業務システム、チャット、ファイル共有顧客情報・社内資料の流出
情報収集用の外部サービス、ニュースサイト影響は限定的(ただし使い回し厳禁)

特に見落とされやすいのがドメイン・DNSの管理アカウントである。担当者の個人メールで取得したまま誰も把握していない例は珍しくない。パソコン・ライセンスと同じくIT資産管理の一覧に含めて管理したい。

対策2: パスワード管理ツールを1つ入れる

人間が覚えられるパスワードの数には限界がある。ツールで生成・保存し、覚えるのはツールを開くためのマスターパスワード1つだけにする、というのが現在の標準的な考え方である。

方式費用目安向いている会社
個人向けツールの無料プラン0円まず1人で試す段階。共有機能は限定的
法人向けパスワード管理ツール1ユーザー月額300〜800円程度10名以上。部署単位の共有・権限管理・退職時の一括停止が必要
Microsoft 365 / Google Workspace の標準機能既存ライセンス内業務が1つのクラウド基盤に寄っている会社
表計算ファイルでの管理0円推奨しない(暗号化・監査・退職時回収のいずれも弱い)

法人向けツールを選ぶ際は、価格よりも「退職者のアクセスを管理者側で即座に止められるか」を最優先の判断軸にしたい。個人アカウントの寄せ集めで運用すると、辞めた社員の端末に会社の認証情報が残り続ける。

対策3: 多要素認証(MFA)を優先度の高いところから有効にする

多要素認証(MFA / 2段階認証)とは、パスワードに加えてもう1つの要素で本人確認する仕組みである。パスワードが流出しても、もう1つの要素がなければ入れない。方式によって強さと手間が違う。

方式強さ手間・注意点
SMSに届くコード低〜中手軽だが、番号の乗っ取りに弱い。ないよりは大幅に良い
認証アプリのワンタイムコード中〜高無料。スマホ機種変更時の移行手順を事前に決めておく
プッシュ通知承認中〜高承認を押すだけ。通知を連打されて誤承認する事故に注意
パスキー / セキュリティキー偽サイトに強い。キーは紛失に備えて2本用意する

全社一斉ではなく、対策1で作った優先度の上位(経営者・経理・管理者アカウント)から有効にする。ここだけでも被害の大きい経路はふさげる。運用で必ず決めておきたいのが予備手段で、スマホの紛失・機種変更で全員がログインできなくなる事故は現実に起こる。復旧コードを印刷して金庫に保管する、管理者を2名以上にする、といった備えをセットにする。

見落とされがちな3つの穴

- 共有アカウント: 「代表メール」「経理共通ID」など複数人で使うIDは、MFAの受け取り先が誰なのか曖昧になりがち。個人IDに分けるか、パスワード管理ツールの共有機能に移す
- 退職・異動時の停止漏れ: 業務システムは止めたが、クラウドストレージや外部SaaSが残る。停止対象の一覧を先に作っておく(退職者のクラウドアカウント管理
- 外部委託先のアカウント: 制作会社・会計事務所に渡したIDが、契約終了後も有効なまま残る。契約終了時の停止を運用に組み込む

導入チェックリスト

- 会社で使っているサービスとアカウントを一覧化したか
- ドメイン・DNS・サーバーの管理アカウントの所在を把握しているか
- 被害の大きい順に優先度を3段階程度で分類したか
- パスワード管理ツールを決め、管理者が退職者のアクセスを止められる形で契約したか
- 経営者・経理・各サービスの管理者アカウントにMFAを有効化したか
- MFAの復旧手段(復旧コードの保管場所・予備の管理者)を決めたか
- 共有アカウントを洗い出し、個人IDへの分離または共有機能への移行方針を決めたか
- 退職・異動・委託終了時に止めるアカウントの一覧を作ったか
- 万一の漏えい時に誰が何をするかを決めてあるか(情報漏えい発生時の対応

よくある質問

パスワードは定期的に変更したほうがよいですか?

定期変更を一律に義務づける運用は、覚えやすい文字列への退化や末尾の数字を増やすだけの変更を招きやすく、現在は推奨されない傾向にあります。それよりも「長く複雑なパスワードを使い回さない」「多要素認証を有効にする」「流出の通知があった場合や退職・異動があった場合に速やかに変更する」という運用のほうが実効性が高いと考えられます。

パスワード管理ツールにまとめると、そこが破られたら全滅では?

リスクがゼロになるわけではありませんが、使い回しと付箋管理を続ける場合と比べれば被害の起きやすさは大きく下がります。マスターパスワードを十分に長くする、ツール自体にも多要素認証をかける、復旧手段を安全な場所に保管する、という3点を守ることが前提です。

多要素認証は全社員に必要ですか?

最終的には全社員に広げるのが望ましいですが、一斉導入は現場の混乱を招きやすいため、経営者・経理・各サービスの管理者アカウントから始める段階導入が現実的です。メールとクラウドストレージのように、乗っ取られると被害が広がるサービスから順に対象を広げていく方法が取り組みやすいでしょう。

費用はどのくらい見ておけばよいですか?

法人向けパスワード管理ツールで1ユーザーあたり月額300〜800円程度が一般的なレンジです(プランと機能によって変動します)。多要素認証は認証アプリを使えば追加費用なしで始められ、セキュリティキーを配る場合はハードウェア代が1本あたり数千円程度かかります。導入時に必要になるのは費用よりも、対象アカウントの洗い出しと復旧手順の整備にかける時間です。

社員がスマートフォンを持っていない場合はどうすればよいですか?

個人スマートフォンの業務利用に抵抗がある場合もあります。その場合はハードウェアのセキュリティキーを会社支給する、あるいはPC上で動作する認証アプリを使うといった選択肢があります。個人端末の利用を前提にする場合は、業務利用の範囲と費用負担の扱いを事前に社内で決めておくとトラブルを避けられます。

まとめ

アカウント管理は、高価な製品を入れる話ではなく「一覧化する・使い回しをやめる・大事なところから多要素認証をかける」という3つの積み重ねである。まず会社のアカウントを1枚の表に並べ、被害の大きい順に並べ替える。そこから上位数件にパスワード管理ツールとMFAを適用するだけでも、中小企業を狙う典型的な侵入経路の多くはふさげる。全社展開はその後で構わない。リスク対策全体の見取り図は中小企業のITリスク対策 完全ガイドにまとめている。

お気軽にご相談ください

お問い合わせ