本文へスキップ
株式会社オブライト
Software Development2026-08-21約7分で読めます

Mojoが完全OSS化、Apache 2.0公開で何が変わるか

2026年8月18日のModCon 2026で、ModularがMojoの完全オープンソース化を発表した。コンパイラ本体・標準ライブラリをApache 2.0 with LLVM exceptionsで公開し、公開範囲とビルド手順、まだ受け付けていない外部コントリビュートの範囲を技術者向けに整理する。


2026年8月18日、サンフランシスコで開催されたModCon 2026において、Modularはプログラミング言語Mojoの完全オープンソース化を発表した。公開されたのはMojoコンパイラ本体・ツールチェーン・標準ライブラリ、そしてModularソフトウェアスタックであり、ライセンスは許容的なApache 2.0 with LLVM exceptionsである。Mojoは2026年8月12日にソース安定性のマイルストーンである1.0へ到達したばかりで、今回の発表はその直後のタイミングとなった。1.0の詳細はMojo 1.0とは?インストール・GPU対応・Pythonとの違いで解説しているので、Mojo自体を初めて触る場合はそちらもあわせて確認してほしい。

何が公開されたのか

今回公開されたリポジトリはgithub.com/modular/modularで、数十万行規模に及ぶMojo製のカーネルコードが含まれている。これはGPU向けの演算カーネルなど、これまでModularが社内で保守してきたコードの大部分にあたる。公開範囲は大きく分けて次の3つに整理できる。1つ目はMojoコンパイラ本体とそれを取り巻くツールチェーン、2つ目はMojoで書かれた標準ライブラリ、3つ目はMAX(Modularの推論・実行スタック)を含むModularソフトウェアスタック全体である。単に一部のライブラリだけを公開する形ではなく、言語処理系そのものとその上で動く実運用コードまでを一括で公開した点が特徴である。

Apache 2.0 with LLVM exceptionsとは何か

Apache 2.0は商用利用・改変・再配布を広く認める許容的(パーミッシブ)ライセンスであり、多くのOSSプロジェクトで採用されている。今回Modularが選んだのは、それに「LLVM exceptions」という追加条項を組み合わせた形である。この例外条項はLLVMプロジェクト自体が採用していることで知られており、コンパイラが生成するランタイムライブラリをリンクして使う場合に、通常のApache 2.0が求める帰属表示(NOTICEファイルの同梱など)の義務がそのリンク時点にまで及ばないようにする、という趣旨のものである。コンパイラやランタイムを組み込んだ製品を配布する際に、ライセンス条項の解釈で開発者が悩む場面を減らすための実務的な調整と理解しておくとよい。MojoコンパイラはLLVM/MLIR基盤の上に構築されているため、同系統のライセンス例外を採用するのは自然な選択といえる。

ソースからビルドする手順

ビルドにはBazelのラッパースクリプトである./bazelwを使う。リポジトリをクローンした後、以下のようなコマンドでMojoファイルを直接実行できる。

./bazelw run --config=build-mojo KGEN:mojo -- run hello.mojo

標準ライブラリのテストスイートを回す場合は以下のようになる。

./bazelw test --config=build-mojo mojo/stdlib/test/...

毎回ソースからフルビルドするのは時間がかかるため、nightlyのプリビルド済みバイナリを使う選択肢も用意されている。この場合は--config=prebuilt-mojoを指定する。コンパイラ自体の挙動を確認したいだけであれば、こちらの方が手早く試せる。

./bazelw run --config=prebuilt-mojo KGEN:mojo -- run hello.mojo

まだできないこと

ソースが公開されたからといって、誰でもすぐにコンパイラへプルリクエストを送れるわけではない点には注意したい。標準ライブラリへの外部コントリビューションは2024年から受け付けられているが、コンパイラ本体やツールチェーンへの外部からのコントリビューションは、この発表の時点ではまだ受け付けていない。Modularは2026年内にコンパイラ・ツールへのコントリビューション受付を開始する予定としているが、具体的な開始日は明言されていない。また、MAXが提供するカーネルやモデルをカスタマイズする用途では、現時点でもプリビルドのMojoコンパイラが必要であり、ソースからのセルフビルドだけで完結する運用にはまだ移行しきっていない。ソースが読める・ビルドできることと、開発プロセスに参加できることは別の段階にあると理解しておくとよい。

Qualcomm買収という文脈

今回の全面オープンソース化は、Qualcommが2026年7月末にModularを約39億ドルで買収する取引を完了させた直後の動きにあたる。買収と全面OSS化の因果関係について、Modularやqualcomm側から公式な説明がなされているわけではない。買収によって得られたリソースや事業方針の変化がオープンソース戦略の後押しになったのではないかという見方もあるが、これはあくまで外部からの推測であり、公式発表として明言されている事実ではない点は区別しておく必要がある。確実に言えるのは、買収完了からおよそ3週間というタイミングで、これまで一部非公開だったコンパイラ・カーネルコードが公開されたという事実関係のみである。

他言語・他プロジェクトとの比較

言語/プロジェクトライセンスコンパイラへの外部コントリビュート主用途
MojoApache 2.0 with LLVM exceptions標準ライブラリは受付済み、コンパイラ本体は2026年内に開始予定AI/GPUカーネル、Python互換の高速処理
RustMIT / Apache 2.0 デュアルライセンス受付済み(RFCプロセスによる公開ガバナンス)システムプログラミング、WebAssembly
SwiftApache 2.0 with Runtime Library Exception受付済み(Swift Evolutionによる公開ガバナンス)Apple向けアプリ開発、サーバーサイド
JuliaMIT License受付済み(GitHub上でのコミュニティ主導開発)科学技術計算、数値解析

この表からわかるように、Rust・Swift・Juliaはいずれもすでにコンパイラおよびランタイムのソースコードが公開され、外部からのプルリクエストを受け付ける公開ガバナンス体制が確立している。Mojoは標準ライブラリについては同様の段階に入っているが、コンパイラ本体のガバナンスはこれから整備される段階にある点が現状の違いである。ライセンス自体はApache 2.0系という点でSwiftと近く、いずれもLLVMを基盤に持つ処理系という共通点がある。

実務者はいま何をすべきか

- Mojoの言語仕様やGPUカーネルの実装を読んで理解したいエンジニアは、今すぐソースを読む価値がある。数十万行規模の実運用カーネルコードは、GPUプログラミングやコンパイラ実装の学習材料としても参考になる
- 自社製品にMojoコンパイラやランタイムを組み込む可能性を検討している場合は、Apache 2.0 with LLVM exceptionsのライセンス条件を自社の法務・知財担当と確認しておくとよい
- コンパイラ本体へのプルリクエストを送りたい場合は、2026年内とされる受付開始のアナウンスを待つ必要がある。今の時点で対応できるのは標準ライブラリへの貢献にとどまる
- MAXのカーネルやモデルをカスタマイズする用途は、引き続きプリビルドのMojoコンパイラが前提となるため、既存の導入手順に大きな変更はない
- 様子見でよいのは、すでに他言語でGPU/AI基盤を安定運用しており、Mojoへの移行コストに見合うメリットが今の時点で明確でないチーム。コンパイラのガバナンスが固まる2026年内の続報を待つのが妥当

Mojoは無料で商用利用できますか?

はい。Apache 2.0 with LLVM exceptionsは商用利用・改変・再配布を広く認める許容的ライセンスです。ただし自社製品への組み込み方によってはライセンス条項の確認が必要な場合があるため、法務担当と確認することをおすすめします。

今すぐMojoコンパイラにプルリクエストを送れますか?

コンパイラ本体・ツールチェーンへの外部コントリビューションは、2026年8月時点ではまだ受け付けられていません。標準ライブラリへのコントリビューションは2024年から受付済みです。コンパイラへの受付開始は2026年内を予定していますが、具体的な日付は明言されていません。

ソースからビルドせず試すことはできますか?

はい。./bazelwに--config=prebuilt-mojoを指定すると、nightlyのプリビルド済みバイナリを利用できます。フルビルドの時間を省いてすぐに試したい場合に向いています。

MAXのカーネルやモデルをカスタマイズするのにソースビルドは必須ですか?

現時点では必須ではなく、プリビルドのMojoコンパイラで対応可能です。ソースからのセルフビルドのみで完結する運用への移行は今後の展開次第です。

なぜこのタイミングでオープンソース化されたのですか?

2026年7月末にQualcommによるModularの買収(約39億ドル)が完了しており、その直後にあたる2026年8月18日のModCon 2026で発表されました。買収と全面OSS化の因果関係について公式な説明はなく、関連を指摘する見方があるものの推測の域を出ません。

この記事に関連する無料ツール(登録不要・その場で結果)

お気軽にご相談ください

お問い合わせ