本文へスキップ
株式会社オブライト
Business DX2026-11-04約14分で読めます

情報セキュリティポリシーの作り方 — 中小企業向けの手順・ひな形・費用【2026年版】

2026年版の情報セキュリティポリシーの作り方を中小企業向けに解説。基本方針・対策基準・実施手順の3層、IPAの無料ひな形とSECURITY ACTIONの使い方、最低限決める8項目、作成6ステップ、自作から専門家支援までの費用の目安、形骸化させない運用まで、IT担当者がいない会社向けに具体的に整理する。


情報セキュリティポリシーとは、会社として情報をどう守るかを文書にして、全員が同じルールで動けるようにしたものである。 大企業だけのものと思われがちだが、取引先から「ポリシーはありますか」と問われる場面は、従業員が数人の会社でも増えている。IT担当者がいなくても、IPA(情報処理推進機構)が公開している無料のひな形を使えば、最初の版は数日から数週間で作れる。本記事では、ポリシーの構造(基本方針・対策基準・実施手順の3層)、必要になる理由、IPAのガイドラインと付録の使い方、最低限決めるべき項目、作成の6ステップ、自作・専門家支援・コンサル依頼の費用の目安、形骸化させない運用を、経営者や総務の担当者向けに整理する。費用は「一般的な相場の目安」であり、実際の金額は会社の規模や依頼先で変わる。

情報セキュリティポリシーとは何か — 3層の構造

情報セキュリティポリシーは、一般に次の3つの層で考える。全部を一冊にまとめる必要はなく、中小企業では層ごとに分量を変えて、できるところから整える。

層中身分量の目安誰が決めるか
①基本方針何のために、何を守るか。経営者の考えと責任者の宣言A4で1ページ程度経営者
②対策基準(規程)守るべきルール。パスワード、端末、メール、バックアップなどの決まり数ページから数十ページ経営者と担当者
③実施手順実際の操作手順。退職時の作業、バックアップの取り方、事故時の連絡網手順書、チェックリスト現場の担当者

たとえば「パスワードは使い回さない」は②の基準にあたる。「どのツールで、誰が、どう管理するか」を具体的に書くのが③である。①があると、②③を作るときの判断がぶれにくい。IPAのガイドラインも、基本方針を経営者が示し、そのうえで具体的な規程や手順に落とす流れを想定している。

なぜ中小企業にもポリシーが必要か

「うちは小さいから狙われない」という考え方は、2026年時点では通用しにくい。必要になる理由は、大きく4つある。

1つ目は、取引先からのセキュリティチェックシートである。 大手企業や官公庁との取引では、情報セキュリティの管理体制について、書面で回答を求められることがある。質問の多くは「情報セキュリティポリシーはありますか」「従業員教育を行っていますか」「事故時の連絡体制はありますか」といった内容で、文書が一式あるかどうかで回答の説得力が変わる。取引先の要求に応えられずに口座開設や契約更新で不利になる例は、珍しくない。

2つ目は、プライバシーマーク(Pマーク)やISMSなどの認証取得である。 これらの認証は、ポリシーや規程の整備が前提になる。認証まで進むかどうかは別として、先にポリシーを整えておくと、後の負担が軽くなる。費用と判断のポイントはPマーク・ISMS取得の費用ガイドにまとめている。

3つ目は、サイバー保険の申込みや更新である。 保険会社によっては、加入時に、セキュリティ対策の実施状況に関する質問票への回答を求められる。MFAの導入、バックアップ、従業員教育などを問われることがあり、ポリシーに沿って運用していると答えやすい。具体的な条件は保険会社と商品によって異なるため、個別に確認してほしい。

4つ目は、生成AIの利用である。 社員が業務で生成AIに顧客情報や社内資料を入力してしまう問題は、禁止するだけでは防げない。「何を入力してよく、何をしてはいけないか」を文書で示す必要がある。考え方は生成AIの社内ルールの作り方で扱っている。ポリシーに生成AIの項目を1つ入れておけば、後から詳しいルールを追加する土台になる。

会社全体のリスクの見取り図は中小企業のITリスク対策ガイドにある。ポリシーはそのうち、「人のルール」の部分を担う。

IPAのガイドラインと付録を使う

ゼロから文章を書く必要はない。IPAが公開している「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」には、そのまま使えるひな形が付録として付いている。IPA公式ページで確認した範囲(2026年11月時点)では、次の内容である。

付録内容使いどころ
付録2情報セキュリティ基本方針(サンプル、Word)①基本方針の叩き台。社名と責任者を入れれば形になる
付録35分でできる!情報セキュリティ自社診断(PDF)現状の把握。何が足りないかの確認
付録4情報セキュリティハンドブック(ひな形、PowerPoint)従業員向けの周知資料
付録5情報セキュリティ関連規程(サンプル、Word)②対策基準の叩き台。項目の網羅に使う
付録6資産管理台帳(サンプル、Excel)端末やソフト、クラウドの棚卸し
付録7クラウドサービス安全利用の手引き(PDF)クラウドの選定と運用ルール
付録8セキュリティインシデント対応の手引き(PDF)③事故時の手順の叩き台

ガイドライン自体は、経営者が認識すべき指針を示す「経営者編」と、社内で対策を実践する手順を示す「実践編」の2部構成である。版数は、IPAの公式ページによると、第4.0版が2026年3月27日に公開されている。この改訂で、従来の「5か条」にバックアップが加わり、「情報セキュリティ6か条」になった。ひな形は更新されることがあるので、使う前にIPAの公式ページで最新の版を確認してほしい。

注意点は、付録5の関連規程サンプルは、そのまま出すと自社の実態と合わないことである。サンプルには、自社にない部署や設備、使っていないツールを前提にした条文が含まれる。そのまま採用して守れない規程になると、かえって形骸化しやすい。サンプルは項目の漏れを防ぐ「チェックリスト」として使い、自社の実態に合わせて削る、書き換える、が基本の使い方である。

SECURITY ACTION(一つ星・二つ星)を活用する

SECURITY ACTIONは、IPAが運営する、中小企業が自らセキュリティ対策に取り組むことを宣言する制度である。取引先への説明材料として使えるほか、各種の補助金の申請要件に関わることもあるため、利用を検討したい(補助金の要件は年度や制度で変わるので、公募要領で確認が必要である)。IPA公式ページで確認した宣言の内容は次のとおりである。

区分宣言の内容ポリシーとの関係
一つ星「情報セキュリティ6か条」に取り組むことを宣言する。対策の実施前でも申込みできるとされている基本方針を作る前の第一歩。最初の取り組み宣言として使える
二つ星「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」(25項目)を実施し、情報セキュリティ基本方針を策定して外部に公開する付録2の基本方針サンプルを使える。ポリシー整備の最初の到達点になる

一つ星の6か条は、①OSやソフトウェアを常に最新にする、②ウイルス対策ソフトを導入する、③パスワードを強化する、④共有設定を見直す、⑤バックアップを取る、⑥脅威や攻撃の手口を知る、である。二つ星では、基本方針を自社のウェブサイトや会社案内などで外部に公開することが求められる。なお、申込みの方法は2026年4月に新しい管理システムに変わったと案内されているため、手続きはIPAの公式ページで最新の方法を確認してほしい。

ポリシー作成の順番としては、まず一つ星を宣言して6か条に取り組み、自社診断で現状を把握し、基本方針を作って二つ星を宣言する、という流れが無理がない。基本方針だけなら1ページなので、最初の達成感が得やすい。

最低限決めておくべき項目

規程を数十ページ書く前に、まず次の8項目を決めることを勧める。これだけでも、日常の事故の大半に対処できる。

項目決めること(例)関連する対策
①パスワード・MFA使い回し禁止、管理ツールの利用、重要サービスのMFA必須パスワード管理ツールの導入
②端末・持ち出し会社支給か私物か、画面ロック、ディスク暗号化、紛失時の連絡端末管理、遠隔ロック
③メール・添付不審メールの扱い、添付ファイルの送り方、誤送信の防止迷惑メール対策、パスワード別送の見直し
④クラウド・アカウント管理使ってよいサービスの範囲、管理者の指名、共有アカウントの扱い資産管理台帳、権限の棚卸し
⑤バックアップ対象、頻度、保管場所、復元テストの有無別の場所にも取る、復元を確認する
⑥入退社入社時の権限付与、退職時のアカウント停止と端末回収入退社チェックリスト
⑦事故時の連絡誰に、どの順で、何分以内に連絡するか。外部への相談先連絡網、情報漏えい発生時の初動
⑧生成AI入力してよい情報としてはいけない情報、使ってよいツール利用ルールの周知

この表の各項目に、「誰が」「いつまでに」「どう確認するか」を1行ずつ足すと、ポリシーとして機能し始める。「パスワードを強くする」とだけ書くより、「重要なクラウドサービスはMFAを必須とし、総務担当が四半期に1回、設定状況を確認する」と書くほうが、実行されやすい。

作成の6ステップ

ステップ1:現状を把握する

IPAの「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」に答え、足りない対策を見つける。同時に、資産管理台帳(付録6)に、使っているパソコン、スマートフォン、クラウドサービス、重要なデータの置き場所を書き出す。守る対象が見えないと、ルールは作れない。この作業は、半日から1日で終わることが多い。

ステップ2:責任者と範囲を決める

経営者を最高責任者とし、日常の運用を担う担当者を1人決める。IT担当者がいない会社では、総務や経理の担当者が兼務することが多い。対象とする範囲(正社員のみか、パート・業務委託・派遣も含めるか)も、ここで決める。委託先や外部の協力者が情報に触れるなら、範囲に含めたほうがよい。

ステップ3:基本方針を作る

付録2のサンプルを使い、社名、目的、守る対象、責任者、法令の遵守、継続的な見直しなどを入れる。1ページに収める。経営者自身の言葉で、なぜ守るのかを1〜2行入れると、従業員に伝わりやすい。これが完成すれば、二つ星の宣言に必要な基本方針の要件も満たせる。

ステップ4:対策基準(規程)を作る

前節の8項目から、必要なものを付録5の条文を参考に書く。最初は全部を書かなくてよい。書いたら必ず、「今の会社で本当に守れるか」を担当者と一緒に確認する。守れない項目は、削るか、守れる形に直す。

ステップ5:実施手順と事故時の連絡網を作る

退職時の作業手順、バックアップの取り方、事故時の連絡網を、手順書やチェックリストにする。事故時の対応は、IPAの付録8(セキュリティインシデント対応の手引き)が参考になる。連絡網は、夜間や休日に連絡がつく人も入れておく。実際の初動の考え方は情報漏えい発生時の初動対応でも扱っている。

ステップ6:周知・教育して、公開・申請する

ポリシーは、作っただけでは意味がない。全員に説明し、読んだことを記録に残す。ハンドブック(付録4)を使えば、スライドで説明できる。そのうえで、基本方針を自社サイトなどで公開し、SECURITY ACTION二つ星を宣言する。教育の費用や方法はセキュリティ教育の費用ガイドを参照してほしい。

費用の目安 — 自作・専門家支援・コンサル依頼

費用は、誰がどこまで作るかで大きく変わる。次の金額は一般的な相場の目安であり、依頼先・規模・作業範囲で変わる。見積もりの前に、複数社に同じ条件で依頼して比較することを勧める。

方法外部費用の目安社内の工数の目安向く会社
①自作(IPAのひな形を利用)0円(ひな形は無料)担当者で20〜40時間程度人数が少なく、取引先の要求が軽い会社
②自作+専門家のレビュー数万円〜20万円程度15〜30時間程度自作したが、抜けがないか確認したい会社
③専門家による作成支援(ヒアリングと文書作成)20万〜60万円程度10〜20時間程度担当者を割けない、取引先の要求が高い会社
④認証取得を見据えたコンサル(Pマーク・ISMS等)数十万〜100万円超(認証審査料は別)数十時間以上認証が取引の条件になっている会社

費用を左右する要素は、従業員数、拠点の数、扱う情報の重要度(個人情報の量など)、既存の文書の有無、依頼先のレビューの深さである。依頼する場合は、成果物(何の文書が何ページ納品されるか)、打合せの回数、見直し時の追加費用、納品後の質問対応の有無を、見積もりで確認する。なお、文書を作るだけでは対策は進まない。端末の暗号化やバックアップの導入などの実施費用は、別に必要になる。

判断の目安としては、まず①で作り、取引先から質問票が来た段階で②を検討するのが現実的である。③④は、取引先から認証や詳細な書面を求められたときの選択肢になる。

形骸化させない運用

ポリシーで最も多い失敗は、作ったあとに放置されることである。次の運用を、年間のスケジュールに入れておく。

時期作業担当
年1回ポリシー全体の見直し。実態とのずれを直す担当者と経営者
年1回以上全員への周知・教育。新しい手口の共有担当者
入社時ポリシーの説明と誓約の記録総務
四半期ごとアカウントと権限の棚卸し、バックアップの復元確認担当者
事故・ヒヤリハット後原因の確認とルールの改訂担当者と経営者
取引先・法令の変更時要求事項の確認と反映経営者

見直しの際は、守られていなかった条文を見つけて、守れる形に直すことが大切である。守れない規程を放置すると、全体が軽視される。また、ヒヤリハット(実際の被害にはならなかった出来事)を責めずに報告できる雰囲気も、ポリシーの効果を左右する。報告した人が叱られる会社では、事故が隠れて大きくなる。

よくある失敗パターン

- ひな形をそのまま出した: 自社にない部署やツールの条文が残り、守れない規程になる。サンプルは項目の漏れ確認に使い、自社の実態に合わせて削る
- 完璧な規程を作ろうとして止まった: 数十ページを目指して数か月が過ぎる。まず基本方針1ページと8項目の簡易版を作り、後から増やす
- 担当者だけが知っている: 経営者や従業員が内容を知らず、事故のときに動けない。周知と教育を必ず行う
- 作って終わりにした: 年1回の見直しがなく、ツールや働き方が変わったのに古いまま残る
- 経営者が関与していない: 費用や優先順位を決められず、対策が進まない。基本方針は経営者の名前で出す
- 事故時の連絡網がない、または古い: 退職者が連絡先に残っている、休日に連絡がつかないなど、肝心なときに使えない
- 例外が際限なく増える: 「忙しいから」「社長だから」と例外を認めると、ルールが形だけになる

ポリシー整備のチェックリスト

- IPAの自社診断(5分でできる情報セキュリティ自社診断)に回答したか
- 使っているパソコン、スマートフォン、クラウドサービスの一覧を作ったか
- 経営者を最高責任者とし、日常の運用担当者を決めたか
- ポリシーの対象範囲(正社員、パート、委託先など)を決めたか
- 基本方針を1ページにまとめ、経営者が承認したか
- パスワード・MFAのルールを決めたか
- 端末の持ち出しと紛失時の連絡ルールを決めたか
- メールの添付や誤送信に関するルールを決めたか
- 使ってよいクラウドサービスと、管理者を決めたか
- バックアップの対象、頻度、保管場所、復元確認を決めたか
- 入社時と退職時の手順(権限付与、アカウント停止、端末回収)を作ったか
- 事故時の連絡網と外部の相談先を作り、休日の連絡手段も確認したか
- 生成AIに入力してよい情報としてはいけない情報を決めたか
- 全員に説明し、読んだことの記録を残したか
- 年1回の見直しの日を、年間予定に入れたか
- SECURITY ACTIONの宣言を検討したか

よくある質問

従業員が数人の会社でも、情報セキュリティポリシーは必要ですか。

人数が少なくても、取引先から質問票への回答を求められたり、顧客情報を扱ったりする会社では必要になる。ただし、最初から分厚い規程は不要である。基本方針1ページと、パスワード・バックアップ・事故時の連絡などの要点を数ページにまとめた簡易版から始めて、必要に応じて増やすのが現実的である。

IPAのひな形は、そのまま使ってよいですか。

IPAの付録は、中小企業が利用できるサンプルとして公開されている。ただし、そのまま出すと自社にない設備やツールを前提にした条文が残り、守れない規程になる。項目の漏れを確認するための土台として使い、自社の実態に合わせて削ったり書き換えたりするのがよい。利用条件は、IPAの公式ページで確認してほしい。

SECURITY ACTIONの宣言には費用がかかりますか。

宣言そのものは、IPAの制度として運営されている。申込みの方法や条件は、2026年4月に新しい管理システムになったと案内されているため、最新の内容をIPAの公式ページで確認してほしい。二つ星では、基本方針の外部公開が求められるため、自社サイトに掲載する作業は必要になる。

ポリシーを作れば、PマークやISMS認証は取れますか。

ポリシーは認証の前提の一部にすぎない。認証には、リスクの評価、運用の記録、内部の確認、審査といった追加の取り組みが必要である。まずポリシーを整えておくと後の負担は軽くなるが、認証の要否や費用は取引先の要求と照らして判断するのがよい。

ポリシーの作成を外部に頼むと、どのくらいかかりますか。

一般的な相場の目安では、自作した文書のレビューで数万円から20万円程度、ヒアリングを含む作成支援で20万〜60万円程度、認証取得を見据えたコンサルでは数十万円から100万円を超えることもある。範囲と成果物で大きく変わるため、複数の依頼先で同じ条件の見積もりを比べてほしい。

生成AIのルールは、ポリシーに入れるべきですか。

入れておくことを勧める。ポリシーに「業務で生成AIを使うときは、個人情報や取引先の機密を入力しない。使ってよいツールは会社が指定する」といった1項目があれば、後から詳しいルールを追加する土台になる。詳細は別の文書にしてもよい。

お気軽にご相談ください

お問い合わせ