法人向けパスワード管理ツールの選び方と費用
1Password・Bitwarden・Keeperの比較と導入手順【中小企業向け】
法人向けパスワード管理ツールは、共有アカウントの管理と退職者のアクセス停止を管理者が行うための仕組み。1Password・Bitwarden・Keeperの価格と機能を比較し、10人規模の年額試算、選び方、5ステップの導入手順を、IT担当者がいない中小企業向けに整理する。価格の基準日は2026年11月。
法人向けパスワード管理ツールは、「共有アカウントのパスワードを安全に共有し、退職者のアクセスを管理者が止められる」ようにするための仕組みである。 表計算ソフトやブラウザ任せの保存では、誰が何を見られるかを会社が把握できない。10人規模であれば、1Passwordの Teams Starter Pack は月額24.95ドル(年払い)、Bitwarden Teams は1人あたり月額4ドル(年払い)と、年間の費用は数万円規模に収まる(2026年11月確認、為替により円換算は変わる)。本記事では、選び方、費用、導入手順を、IT担当者がいない会社向けに整理する。
なぜ表計算ソフトやブラウザ保存では足りないのか
「共有アカウント一覧」を表計算ソフトで作り、共有フォルダに置いている会社は多い。手軽だが、会社の管理という観点では次の弱点がある。
- 閲覧者を絞りにくい: フォルダを見られる人は全員、全アカウントのパスワードを見られる
- 誰が見たかが残らない: 退職前後に誰がコピーしたのか追えない
- 退職者の端末に残る: ブラウザに保存したパスワードや、ダウンロード済みのファイルは、アカウントを止めても退職者の手元に残り得る
- 更新が遅れる: パスワードを変えても表の更新を忘れ、古い情報が残る
- 共有の方法が不安定: 口頭、チャット、メールで送るうちに、履歴にパスワードが残る
ブラウザ内蔵のパスワード保存(Google パスワード マネージャーや Microsoft Edge のパスワード機能など)は、個人が使う分には便利である。ただし本質的に「個人のアカウントに紐づく」仕組みで、会社として、誰がどのパスワードを持っているかを一括で見たり、退職時に管理者が一斉に取り上げたりする用途には向かない。会社全体のアカウント管理の考え方は会社のアカウント・パスワード管理と多要素認証で扱っている。
法人向けパスワード管理ツールでできること
個人向けと法人向けの大きな違いは、「管理者の権限」があるかどうかである。法人向けでは、一般に次のような機能が提供される。
- 共有の保管庫(Vault): 部署やプロジェクトごとに、パスワードをしまう場所を分け、見られる人を指定できる
- 管理コンソール: 管理者が利用者の追加・削除、権限の変更を行える
- 退職時の対応: 利用者を無効化すれば、会社の保管庫にアクセスできなくなる
- 多要素認証(MFA)の強制: 会社の方針として、ツールへのログインに追加の確認を求められる
- 監査ログ: 誰がいつ何をしたかを記録する(プランにより異なる)
- シングルサインオン(SSO): Microsoft Entra ID や Okta など、会社のログイン基盤と連携する(プランにより異なる)
なお、退職者のアクセスを止めても、その人が過去に見たパスワード自体は知られた状態である。重要なアカウントは、退職時にパスワードを変更するところまでを手順にしておく必要がある。この点は退職者のIT対応チェックリストと合わせて確認したい。
主要3製品の比較(2026年11月確認)
各社の公式サイトの料金ページで確認できた内容を表にまとめる。価格は米ドル表示で、1Passwordの料金ページには円表示がなかった。Keeper は料金ページの取得時に金額が確認できなかったため、「要確認」としている。実際の契約前に必ず公式ページで最新の金額を確認してほしい。
| 製品・プラン | 料金(年払い、米ドル) | 特徴 |
|---|---|---|
| 1Password Teams Starter Pack | 月額24.95ドル(年額299.40ドル)で最大10人。11人目以降は1人あたり月額4.99ドル(最大20人) | 小規模向けの定額枠。ロールベースの権限を備える |
| 1Password Business | 1人あたり月額8.99ドル(年額107.88ドル) | 共有・権限の管理を拡張。ID基盤との連携(Okta、Entra ID など)が追加される旨の記載あり |
| Bitwarden Teams | 1人あたり月額4ドル | ディレクトリ同期、SCIMによるユーザー管理、イベント・監査ログを含む。パスワードレスSSOは含まれない |
| Bitwarden Enterprise | 1人あたり月額6ドル | Teams の機能に加え、パスワードレスSSOに対応 |
| Keeper Business Starter / Business | 要確認(料金ページで金額を確認できず) | 管理コンソールを含み、Business Starter は5〜10人規模向けとの記載。共有フォルダや権限の委任は Business 側に記載 |
表のとおり、1人あたりの単価はBitwardenが最も低く、1Password は10人以内であれば定額枠の Starter Pack が割安になる構成である。Keeper は料金ページから金額を確認できなかったため、見積りを取る必要がある。製品の優劣は価格だけでは決まらないので、機能や使い勝手は次の選定基準で比べる。
ブラウザ内蔵の保存機能との違い
| 項目 | ブラウザ内蔵(Google・Edgeなど) | 法人向けパスワード管理ツール |
|---|---|---|
| 費用 | 追加費用なし | 1人あたり月額数ドル〜 |
| 管理者の可視化 | 会社として一覧できない | 管理コンソールで利用者・権限を管理 |
| 共有 | 個人アカウント間の共有が中心 | 保管庫単位で共有し、権限を指定できる |
| 退職時 | 管理者が会社の情報を取り上げにくい | 利用者の無効化でアクセスを止められる |
| 監査ログ | 通常はない | プランにより提供 |
ブラウザ保存を完全に禁止する必要はない。ただし、会社のアカウントは法人向けツールに集約し、ブラウザには保存しない、と方針を決めておくと、棚卸しが現実的になる。
10人の会社での年間費用シミュレーション(例)
従業員10人の会社が、全員に法人向けツールを契約した場合の例を示す。年払いで、上の表の単価をそのまま掛けた計算であり、為替や税、将来の価格改定は含まない。
| 構成 | 月額(米ドル) | 年額(米ドル) |
|---|---|---|
| 1Password Teams Starter Pack(10人) | 24.95ドル | 299.40ドル |
| 1Password Business(10人×8.99ドル) | 89.90ドル | 1,078.80ドル |
| Bitwarden Teams(10人×4ドル) | 40ドル | 480ドル |
| Bitwarden Enterprise(10人×6ドル) | 60ドル | 720ドル |
| Keeper Business | 要確認 | 要確認 |
最も安い構成と最も高い構成で、年額に約3倍の差がある。ただし最も高い構成でも、1人あたり月額10ドル未満である。金額の差は、SSO や詳細な監査ログが必要かどうかで生まれる。10人規模で、まずは共有と退職時の対応ができれば十分という会社は、下位のプランから始めても支障が出にくい。必要になった時点で上位プランに移ればよい。
この費用が高いか安いかは、会社の基準で判断する。たとえば、退職者に古い共有パスワードが残っていた場合の対応コストや、乗っ取りが起きたときの被害と比べて考えるとよい。IT関連の予算全体の組み立て方は、別の記事で扱っている。
選定基準:何を見て決めるか
- 日本語の画面とサポート: 管理者だけでなく、現場の利用者が迷わず使えるか。Bitwardenは言語選択に日本語が含まれる。そのほかの製品も、無料トライアルで画面を確認したい
- ログイン基盤との連携: Microsoft 365 や Google Workspace を使っているなら、SSO や自動ユーザー管理の対応状況と、必要なプランを確認する
- 管理者機能: 利用者の無効化、保管庫ごとの権限、監査ログが必要な範囲で使えるか
- データの保管場所: データを保管する地域を選べるか、契約書や社内規程で保管場所の指定が必要か
- 無料プランの制限: 無料プランや個人向けプランで試せる範囲と、法人運用に必要な機能との差。なお、Bitwarden の料金ページでは無料組織プランの上限が確認できなかったため、公式の最新情報を確認する
- 試用期間: 1Password の Teams Starter Pack・Business には14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)がある旨の記載がある
- 支払い方法: 1Password の料金ページでは、支払いはクレジットカードまたは米国の銀行口座の口座振替と記載されている。請求書払いが必要な会社は、販売代理店を含めて確認する
導入の5ステップ
ステップ1:管理者を決める
管理者は2人以上にする。1人だけにすると、その人が退職・休職した際に、誰も管理コンソールに入れなくなる。経営者が1人、実務担当者が1人、という分担でもよい。マスターパスワードの復旧手段と、復旧用の情報の保管場所も、この時点で決める。
ステップ2:共有アカウントを棚卸しする
会社で使っているサービスを書き出す。メール、会計ソフト、ネットバンキング、ドメイン・DNS、クラウド、SNS、仕入先や取引先のポータルなどである。「誰が持っているか」「個人アカウントか共有アカウントか」「MFAは有効か」も併せて記録する。ここで共有アカウントを個人アカウントに分けられるものは分け、どうしても共有が必要なものを保管庫に入れる。
ステップ3:少人数で試す
全員に配る前に、管理者と、協力してくれる数人で1〜2週間試す。保管庫の分け方、ブラウザ拡張機能やスマートフォンアプリの使い勝手、パスワードを共有するときの流れを確認する。このとき、問い合わせが多かった点は、そのまま社内向けの手順書にする。
ステップ4:移行する
棚卸しした共有アカウントを保管庫に登録する。パスワードが長く変わっていないものや、退職者が知っているものは、この機会に変更する。表計算ソフトの一覧は、移行が終わったら削除し、保存場所を明記して「正」を1つにする。ブラウザに保存された会社のパスワードも、削除を依頼する。
ステップ5:退職時のルールに組み込む
退職時の手順に、「パスワード管理ツールの利用者を無効化する」「その人がアクセスできた保管庫のパスワードを変更する」「MFAの登録を解除する」を加える。入社時にも、利用者の追加と保管庫の権限付与を決まった手順にする。入社と退社の手順に入れておかないと、導入しても数か月で形骸化しやすい。
よくある失敗パターン
- 管理者が1人だけ: その人が不在になると、利用者の追加も削除もできなくなる
- 全員が1つの保管庫を使う: 結局、全員が全パスワードを見られる状態が続く
- マスターパスワードを使い回す: 保管庫の入口が弱いと、全体が危うくなる。長く、他で使っていないものにし、MFAを必ず設定する
- 旧い一覧を消さない: 表計算ソフトとツールの両方に情報が残り、更新が食い違う
- 退職時のパスワード変更を忘れる: 利用者を無効化しても、本人が知っていたパスワードは有効なままである
- 現場に説明しない: 「面倒になった」と受け取られ、個人のメモに戻ってしまう
導入前チェックリスト
- 管理者を2人以上決め、復旧手段を保管したか
- 会社で使うサービスと、共有アカウントの一覧があるか
- ログイン基盤(Microsoft 365 や Google Workspace)との連携が必要か整理したか
- 必要な機能(SSO、監査ログ、権限管理)に対して、プランを選んだか
- 無料トライアルで画面の日本語表示と使い勝手を確認したか
- 支払い方法(カード、請求書払い)を確認したか
- 退職・入社の手順に、利用者の無効化・追加と、パスワード変更を加えたか
- 旧い一覧の削除日と、ブラウザ保存の取り扱いを決めたか
パスワード管理は、セキュリティ対策全体の一部である。全体の優先順位は中小企業のセキュリティ 最初の一歩で整理している。
よくある質問
無料のパスワード管理ツールで十分ですか。
1〜2人で、共有するアカウントがほとんどないなら、まず無料の個人向けプランで始める選択肢もある。ただし、複数人で共有したい、退職時に管理者がアクセスを止めたい、監査ログが必要、といった場合は法人向けのプランが必要になる。無料プランの上限は各社で変わるため、公式サイトの最新情報で確認してほしい。
ブラウザのパスワード保存を使っていてはいけませんか。
禁止する必要はないが、会社のアカウントは法人向けツールに集約するほうが管理しやすい。ブラウザ内蔵の機能は個人のアカウントに紐づくため、管理者が会社として一覧したり、退職時に取り上げたりしにくい。
1Password、Bitwarden、Keeperのどれを選べばよいですか。
どれが最適かは会社ごとに異なる。単価を抑えたいなら Bitwarden、10人以内の小規模なら1Passwordの Teams Starter Pack の定額枠が選択肢になる。Keeper は料金ページから金額が確認できなかったため、見積りを取って比べるとよい。いずれも無料トライアルや問い合わせで、画面の日本語表示と管理者機能を確認してから決めることを勧める。
パスワード管理ツール自体が攻撃された場合は危なくありませんか。
どのサービスもリスクがゼロではない。だからこそ、マスターパスワードを長く固有のものにし、MFAを必ず有効にする。また、重要なアカウントはツールの外でも最小限の復旧手段を決めておく。
退職者の管理者権限はどうすればよいですか。
管理者を2人以上にしておき、退職する管理者の権限は、事前に別の管理者へ引き継ぐ。その上で、退職者の利用者を無効化し、アクセスできた保管庫の重要なパスワードを変更する。
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