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株式会社オブライト
AI2026-07-30約10分で読めます

Qwen Scribe 解説 — Mac完全ローカルの文字起こし・音声入力

Apple Silicon Mac上でQwen3-ASRをMLXで動かし、文字起こしとシステム全体の音声入力(ディクテーション)を完全ローカルで行うOSS「Qwen Scribe」を解説。必要メモリは1.7Bで約3.4GB・0.6Bで約1.2GB。動作要件、導入手順、右⌘押しながら話すだけの使い方、SRT出力、必要な3つの権限、Whisper系との違い、業務で使う際の注意点までGitHub公式READMEの一次情報に基づき整理します(2026年7月)。


Qwen Scribe は、Apple Silicon Mac上で Qwen3-ASRMLX 経由で動かし、音声ファイルの文字起こしと システム全体の音声入力(ディクテーション)完全ローカルで行うOSS(Apache-2.0)である。必要なメモリはユニファイドメモリで 1.7Bモデルが約3.4GB、0.6Bモデルが約1.2GB(アプリのオーバーヘッドは別)。クラウド送信もAPIキーも不要で、右⌘キーを押しながら話して離すと、フォーカス中のテキスト欄に文字が入る。2026年7月29日にShow HNへ投稿され、GitHubスターは公開2週間で100を超えた。

何ができるか

機能は大きく2系統に分かれる。押しながら話すディクテーションと、ファイル/動画のドラッグ&ドロップ文字起こしである。前者はOSレベルのグローバルホットキーで動くため、メールでもエディタでもチャットでも同じ操作で使える。

機能内容
プッシュトゥトーク入力既定は右⌘キー。押している間だけ録音し、離すとローカルで文字起こししてカーソル位置に貼り付け
ファイル文字起こし音声/動画をWeb UIにドラッグ&ドロップ。SRT書き出し・単語単位タイムスタンプに対応
言語自動判定+任意の言語固定
語彙ヒント固有名詞・社内用語を事前に渡して精度を上げる
履歴文字起こし結果をローカル保存。検索・書き出し・個別削除・全削除
UIメニューバー常駐+フォーカスを奪わないHUD(Listening / Transcribing / 成功 / 失敗)
API127.0.0.1:8990 のFastAPIジョブキュー。GPUジョブを直列化してメモリ競合を防ぐ

特徴的なのはAPIをlocalhost限定にし、Hostヘッダとブラウザオリジンを検証している点である。ローカルで動くAI系ツールは「うっかり0.0.0.0で待ち受ける」実装が珍しくないため、この設計は業務端末で動かす前提として素直に評価できる。

動作要件

項目要件
ハードウェアApple Silicon Mac(M1以降)
OSmacOS 14 以降
Pythonネイティブ Python 3.12以降(Rosetta経由は不可)
メモリ1.7Bモデル 約3.4GB / 0.6Bモデル 約1.2GB(+アプリのオーバーヘッド)
その他非WAV形式には ffmpeg、ソースからのビルドにApple Command Line Tools

3.4GBというのは、いわゆるローカルLLMの必要メモリと比べればかなり軽い。16GBのMacでも他の作業と併走できる水準であり、この「常駐させても邪魔にならないサイズ」がディクテーション用途では本質的に重要である。モデルサイズと必要メモリの関係を体系的に押さえたい場合はローカルAIの必要スペックが参考になる。

導入手順

現時点(v0.2.0-beta.1)で配布されているのはソースのみで、署名・公証済みバイナリはDeveloper ID整備後に予定されている。リポジトリを取得したら、アプリ形式でビルドする。

make app
open "dist/Qwen Scribe.app"

ターミナル常駐で使う場合は ./run.sh を実行し、http://127.0.0.1:8990 をブラウザで開く。Pythonの依存パッケージとモデル重みは初回起動時に自動で取得・キャッシュされ、2回目以降は完全オフラインで動作する。ビルド後は /Applications へ移動して構わない。

環境変数で挙動を変えられる。データの置き場所を業務ポリシーに合わせたい場合はここを最初に決めておきたい。

環境変数既定値用途
QWEN_SCRIBE_DATA_DIR~/Library/Application Support/Qwen Scribe文字起こし履歴の保存先
QWEN_SCRIBE_MODEL_DIR./modelsモデル重みの置き場所
QWEN_SCRIBE_PORT8990サーバーのポート

初回起動時に求められる3つの権限

デスクトップでのディクテーションには、macOSの「システム設定 > プライバシーとセキュリティ」で3つの許可が必要になる。何のために必要なのかを理解しておくと、社内展開時の説明がしやすい。

- マイク: プッシュトゥトークキーを押している間の録音に使う
- 入力監視(Input Monitoring): 他アプリが前面にある状態で修飾キーの押下を検知するために必要
- アクセシビリティ: 文字起こし結果をフォーカス中の入力欄に貼り付けるために必要

入力監視とアクセシビリティは、性質上「他アプリの操作に介入できる」強い権限である。ローカル完結という設計と、Apache-2.0でソースが読める点が、この権限を渡す判断の根拠になる。逆に言えば、同種のツールをクローズドソース・クラウド送信ありで導入する場合は、同じ権限をどこまで渡すかを別途検討すべきである。

Whisper系ツールとの違い

Mac向けのローカル文字起こしはWhisper系(MacWhisper / Handy 等)が先行しており、選定時の比較軸は「精度」よりも騒音耐性・句読点・対応OS・成熟度にある。

観点Qwen Scribe (Qwen3-ASR)Whisper系ローカルツールクラウド型ディクテーション
処理場所完全ローカル完全ローカルクラウド送信
騒音下の精度作者はWhisperより有利と主張環境によりばらつき一般に良好
句読点・文分割自然な区切りを重視モデル・実装依存良好
対応OSApple Siliconのみ多くはクロスプラットフォームどこでも
成熟度v0.2.0-beta(新規)相対的に成熟製品として成熟
費用無料(Apache-2.0)無料〜有料月額課金
実装言語Python(Swiftネイティブではない)Swift/Rust実装もあり

HNのコメントでは M1で実時間の約2倍速 で処理できたとの報告があった。速度が足りない場合は0.6Bへ落とす選択肢があり、逆に固有名詞の精度が要るなら1.7B+語彙ヒントという組み合わせになる。クラウド型を含めたディクテーション体験の比較はAqua Voiceの解説、録音デバイス側からAIワークフローに繋ぐ方向はPlaud MCP/CLIを参照。

日本語で使えるか

ここは事前に確認しておきたい点である。上流のQwen3-ASRは日本語に対応している(中国語・英語・広東語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・日本語・韓国語・ポルトガル語・ロシア語・スペイン語を主要対応言語として挙げ、言語判定は52言語・方言に対応と説明されている)。一方、Qwen Scribe側のShow HNで作者が挙げた検証済み言語は英語・ドイツ語・フランス語・ロシア語・イタリア語・スペイン語であり、日本語での品質は作者の検証範囲外である。

また、Qwen3-ASRの公開実装では日本語の処理に nagisa などの追加ライブラリが必要とされている。日本語で常用するつもりなら、自分の音声・自分の用語で1分程度のサンプルを流し、句読点と固有名詞の再現を確認してから運用に組み込むのが確実である。

業務で使うときの注意点

- 履歴は暗号化されない平文JSONでローカル保存される。機密性の高い会話を扱うなら、QWEN_SCRIBE_DATA_DIR の置き場所とFileVaultの有効化、不要履歴の削除運用を決めておく
- v0.2.0-beta.1 かつ未署名・未公証のため、Gatekeeperの警告を回避する手順が必要になる。全社配布より、まず個人利用での検証が現実的
- ネイティブPython 3.12以降が前提。Rosetta経由のPythonや古いバージョンが優先されている環境では動かないため、python3 -c "import platform; print(platform.machine())"arm64 を返すか確認する
- アクセシビリティ・入力監視の権限は、資産管理・セキュリティポリシー上の申請対象になる会社もある。導入前に社内ルールを確認する
- 医療・法務など機密性の高い分野での「ローカルであること」の価値はHNの議論でも中心論点だった。クラウドASRに出せない音声を扱う用途では、この設計自体が要件になる

なお本プロジェクトはREADMEで明記されている通りコミュニティによる独立プロジェクトで、Alibaba Cloud・Qwenチーム・Appleとは無関係である。ベンダーサポートを前提とした業務利用には向かない。

よくある質問

Qwen Scribeは無料ですか?

はい。Apache-2.0ライセンスのオープンソースで、利用料もAPIキーも不要です。モデル重み(Qwen3-ASR 1.7B または 0.6B)も初回起動時にHugging Faceから自動取得され、以降はローカルにキャッシュされます。費用が発生するのは、モデルを動かすためのMacと、ディスク・メモリという自前のリソースだけです。

どのくらいのメモリが必要ですか?

公式READMEでは1.7Bモデルが約3.4GB、0.6Bモデルが約1.2GBのユニファイドメモリを必要とし、これにアプリ自体のオーバーヘッドが加わると説明されています。実運用では、16GBのMacで1.7Bを常駐させても他の作業と併走できる水準です。8GB機で余裕を持たせたい場合や、応答速度を優先する場合は0.6Bを選ぶ構成になります。

Intel MacやWindowsでも動きますか?

動きません。MLXはApple Silicon向けのフレームワークであり、READMEもApple Silicon Mac・macOS 14以降を要件として明記しています。クロスプラットフォームでローカル文字起こしを行いたい場合は、Whisper系の実装(HandyなどWindows/Linuxに対応するもの)を検討することになります。

Whisperと比べて精度は高いですか?

作者はQwen3-ASRのほうが騒音下で有利で、文の区切り方も自然だと述べていますが、公開された第三者ベンチマークによる比較ではありません。言語・録音環境・話し方で結果が変わるため、判断材料としては自分の音声で両方を試すのが確実です。特に日本語は作者の検証範囲外なので、導入前のサンプル確認は省略しないほうがよいです。

文字起こしした内容が外部に送信されることはありますか?

初回のモデル重みダウンロード以降は、通信を必要としません。APIはlocalhost限定で待ち受け、Hostヘッダとブラウザオリジンをチェックしてからリクエストを受け付ける設計です。ただし履歴は暗号化されない平文JSONとしてローカルに保存されるため、端末そのものの保護(FileVault・画面ロック・不要履歴の削除)が実質的な情報保護の要になります。

会議の録画ファイルから字幕を作れますか?

できます。Web UIに音声・動画ファイルをドラッグ&ドロップすると文字起こしが実行され、単語単位のタイムスタンプとSRT形式での書き出しに対応しています。長時間ファイルはジョブキューで直列処理されるため、複数を投げてもGPUメモリの競合は起きにくい設計です。固有名詞が多い会議では、語彙ヒントに社名・製品名・参加者名を渡しておくと修正の手間が減ります。

まとめ

Qwen Scribeは、「音声入力をクラウドに出さない」という要件を、Apple Silicon Macという限定条件と引き換えに素直な実装で満たしたツールである。1.7Bで約3.4GB・0.6Bで約1.2GBという軽さは常駐用途に噛み合い、localhost限定API・平文履歴の明示・Apache-2.0という透明性も、権限の強いツールを業務端末に入れる判断材料として機能する。現時点ではv0.2.0-betaかつ未署名で、日本語品質は作者の検証範囲外なので、まず自分の音声でサンプルを取って確かめる段階にある。

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