納品後のバグは無償で直してもらえる?契約不適合責任と保証期間
システム納品後のバグが無償で直るかは、請負契約の契約不適合責任と保証期間で決まります。2020年の民法改正の要点、不適合になる例とならない例、保証期間と保守契約の違い、契約書の確認点、発見時の手順、保証後の修正費用の目安を、非IT部門の方向けに平易な言葉で整理します。弁護士に相談すべき場面にも触れます。
システムを納品してもらった後に、画面が正しく動かない、計算結果が違うといった不具合が見つかることがあります。そのとき、経営者や担当者がまず気になるのは「これは無償で直してもらえるのか、それとも追加費用がかかるのか」という点ではないでしょうか。この答えを左右するのが、請負契約における「契約不適合責任」と、契約書に書かれた「保証期間」です。本記事では、2020年の民法改正で変わった点、無償対応になるケース・ならないケース、保証期間と保守契約の違い、契約書で確認したい項目を、非IT部門の方にも分かるように整理します。なお、不具合かどうかの確認作業は検収の段階から始まっているため、検収との関係にも触れます。
結論:無償になるかは「契約の種類」と「不適合かどうか」で決まる
先に結論を整理します。納品後の不具合が無償で直るかどうかは、主に次の3点で決まります。①契約が請負か準委任か、②その不具合が「契約内容に適合していない」状態(不適合)と言えるか、③契約書の保証期間や免責の定めの範囲内か、という点です。単に「バグがあった」というだけでは、無償対応が当然とは言い切れません。逆に、契約書に何も書かれていなくても、民法上の契約不適合責任によって請求できる場合があります。まずは、この3つの視点を持っておくと、契約書や納品物を落ち着いて確認できます。

「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に変わった
2020年4月1日に施行された改正民法により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」という考え方に置き換わりました。名前が変わっただけでなく、考え方も整理されています。以前は「隠れた瑕疵(外から見えない欠陥)があるか」が問われましたが、現在は「引き渡されたものが、契約の内容(種類・品質・数量)に適合しているか」が基準です。つまり、見えるか見えないかではなく、「契約で約束した内容と合っているか」で判断されます。システム開発では、この約束の内容が要件定義書や仕様書に書かれていることが多いため、書面の整備が重要になります。
| 項目 | 改正前(瑕疵担保責任) | 改正後(契約不適合責任) |
|---|---|---|
| 判断の基準 | 隠れた瑕疵があるか | 契約内容に適合しているか |
| 買主・注文者の主な権利 | 修補請求・損害賠償・解除が中心 | 追完請求(修補)・代金減額請求・損害賠償・解除 |
| 請負の期間制限 | 引渡し(または仕事の終了)から1年以内に権利行使が必要とされていた | 不適合を知った時から1年以内に請負人へ通知(民法637条) |
| 位置づけ | 法定の責任と捉えられていた | 契約の内容を基準にする考え方(契約で変更もできる) |
表のとおり、現在の請負契約では、注文者は不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人へ通知すれば、責任を追及する権利を保てるとされています。ここでいう1年は「通知」の期限であり、1年以内に修理を終えなければならないという意味ではありません。ただし、請負人が引渡し時に不適合を知っていた、または重大な過失で知らなかった場合は、この期間制限が適用されないとされています。なお、通知した後の権利そのものは、一般的な債権と同じく消滅時効(知った時から5年、権利を行使できる時から10年)の対象になると解説されることが多いです。
注文者に認められる4つの対応
契約不適合があった場合、注文者は一般に次の4つの対応を求められるとされています。実際にどれが使えるかは状況によって異なるため、順番や条件も含めて確認が必要です。
- 追完請求(修補請求):不具合を直すよう求める。システムでは、バグ修正や再開発にあたる
- 代金減額請求:原則として、まず追完を求め、相当の期間内に直されない場合などに、報酬の減額を求める
- 損害賠償請求:不具合によって生じた損害の賠償を求める。請負人に責任を負うべき事情(帰責事由)が必要とされる
- 契約の解除:不具合が重大で、契約の目的を達成できない場合などに契約をやめる。軽微な不適合では認められにくい
現実には、いきなり減額や解除を求めるよりも、まず修正してもらう(追完請求)のが一般的な流れです。システムは作り直しに時間もコストもかかるため、双方が協議して修正の範囲と期限を決めるケースが多くなります。
期間は契約で短縮・変更できる:「検収後〇ヶ月」の落とし穴
民法の期間(知った時から1年以内の通知)は、当事者の合意で変更できる「任意規定」と考えられています。そのため、システム開発の契約書では、「検収完了後6ヶ月以内」「納品後1年以内」のように、期間を明記するのが一般的です。ここで注意したいのは、期間が短く設定されている場合や、起算点が「納品日」「検収日」のどれかで、実質的に使える期間が変わる点です。たとえば、業務で使い始める時期が検収から数ヶ月後だと、年に一度しか使わない機能(年末処理など)の不具合は、保証期間内に見つからない可能性があります。契約書の期間は、自社の業務サイクルと照らして確認しておくと安心です。
請負と準委任で、責任の考え方が違う
契約不適合責任が典型的に問題になるのは、完成を約束する「請負契約」です。一方、「準委任契約」は業務の遂行を約束する契約で、成果物の完成までは保証しません。そのため、請負と同じ形の契約不適合責任は問題になりにくく、代わりに、受託者が専門家として注意を尽くしたか(善管注意義務)が問われます。ラボ型開発やアジャイル型開発は準委任で結ぶことが多く、「バグが出たら無償で直すのが当然」とは限りません。どちらの契約になっているかは、契約書のタイトルだけでなく、報酬の払い方(成果物ごとか、工数・月額か)や完成義務の有無から確認します。詳しい違いは請負と準委任の違いで整理しています。
「不適合」になるもの・ならないもの
次に、実務でよく迷う線引きです。基本の考え方は「契約(仕様書)で約束した内容と違うか」で、以下は一般的な目安です。最終的な判断は契約内容や経緯によって変わります。
| ケース | 不適合と扱われやすいか | 補足 |
|---|---|---|
| 仕様書どおりに動かない(計算違い・画面遷移の誤りなど) | 扱われやすい | 無償の修補対象になりやすい典型例 |
| 仕様書にある機能が未実装 | 扱われやすい | 検収時に見つけるのが望ましい |
| 仕様書に書いていない要望・「当然あると思っていた」機能 | 扱われにくい | 追加開発(有償)になることが多い |
| 納品後に出た新しいOS・ブラウザへの対応 | 扱われにくい | 保守の範囲か別途見積かを契約で確認 |
| 外部サービス(決済・地図・APIなど)の仕様変更による不具合 | 扱われにくい | 提供元の変更は受託者の責任外とされやすい |
| 利用者の操作ミス・誤ったデータ入力 | 扱われにくい | 操作説明の不足があれば別途協議の余地 |
| 発注側が指定した仕様・素材が原因の不具合 | 扱われにくい | 注文者の指示による場合は責任追及が制限されることがある |
| 性能不足(想定した人数で遅いなど) | 条件による | 性能要件が数値で書かれていたかが分かれ目 |
境目で揉めやすいのは「仕様書に書いていない当たり前の挙動」と「性能」です。口頭で伝えただけの要望は、後から「約束した内容」であったと示しにくくなります。要望はメールや議事録に残しておくことが、無償対応の可否を分ける大事な材料になります。追加要望との区別や費用トラブルの防ぎ方は、追加費用が発生するパターンも参考になります。
保証期間と保守契約は別物
「保証期間があるから、ずっと安心」というわけではありません。保証期間(無償の不具合対応期間)は、納品物が約束どおりでなかった場合の修正を、一定期間無償で行うという取り決めです。一方、保守契約は、不具合対応に限らず、問い合わせ対応、監視、軽微な改修、アップデート対応などを、月額などの費用で継続的に受ける契約です。混同されやすいため、両者の違いを表で確認しておきます。
| 項目 | 保証期間(無償保証) | 保守契約 |
|---|---|---|
| 目的 | 納品物が契約どおりでない場合の是正 | 安定稼働の維持・継続的な支援 |
| 費用 | 無償(開発費に含まれる) | 月額または年額の有償 |
| 期間の目安 | 検収後3ヶ月〜1年程度が多い(目安) | 1年単位の更新が多い(目安) |
| 対象 | 仕様書との不一致(不具合) | 問い合わせ、監視、軽微修正、更新対応など契約で定めた範囲 |
| 対象外になりやすいもの | 新OS対応、追加要望、利用者起因の問題 | 大規模な機能追加、契約範囲外の作業 |
| 期間が終わると | 以降の修正は原則有償 | 契約更新しなければ対応が終了 |
保証期間が終わった後に不具合が見つかった場合、民法上の期限(知った時から1年以内の通知など)が残っていても、契約で期間を短くしている場合は契約の定めが優先されることが一般的です。また、保証期間を過ぎる前提で、保守契約に入るかどうかを検討しておくと、期間後の対応で慌てずに済みます。保守契約書で確認する点は、保守契約書のチェックポイントで詳しく扱っています。
契約書で確認したい7つのチェックポイント
契約不適合責任や保証に関する条項は、契約書の「契約不適合責任」「保証」「瑕疵」「損害賠償」「免責」といった見出しにまとまっていることが多いです。署名の前に、次の項目を確認しておきましょう。
- 期間と起算点:「検収完了日から」「納品日から」のどれか。期間は何ヶ月か(3ヶ月・6ヶ月・1年など)
- 通知の方法:書面、メール、専用フォームのどれで通知するか。期間内に通知すれば足りるのか、修正完了まで必要なのか
- 対応の内容:修補(無償修正)が基本か。代替手段や代金減額の記載はあるか
- 免責事項:どんな場合に責任を負わないか(発注者の指示、第三者サービス、利用者の過失、天災など)
- 損害賠償の上限:委託料(開発費)相当額までと定める契約が多い。逸失利益(営業上の損失)を含むか
- 責任の範囲:第三者のライブラリやOSS、クラウドサービスに起因する不具合の扱い
- 再発時の扱い:同じ不具合が再発した場合も無償か。修正で別の不具合が出た場合(デグレード)の扱い
特に損害賠償の上限は見落とされやすい項目です。不具合による損失が大きくても、賠償が開発費の範囲に限られる場合があります。重要な基幹業務で使うシステムほど、この上限と、不具合時の代替手段(手作業での運用手順など)を事前に確認しておくことが大切です。
納品後に不具合を見つけたときの6ステップ
不具合に気づいたら、感情的に連絡する前に、次の手順で整理しておくと協議がスムーズに進みます。特に、期間内に「通知した」という事実を残すことが重要です。
1. 症状を記録する:いつ、誰が、どの画面で、何をしたら、どうなったか。画面のスクリーンショットや動画を残す
2. 再現手順を書く:同じ操作でもう一度起きるか確認し、手順を箇条書きにする
3. 影響範囲を整理する:業務が止まるのか、回避策があるのか。緊急度を伝えられるようにする
4. 書面やメールで通知する:電話だけで済ませず、契約書で定めた方法で記録に残る形で連絡する
5. 契約書で期間と範囲を確認する:保証期間内か、免責に当たらないか、起算点はいつか
6. 協議して対応を決める:修正の範囲、期限、費用負担、再発防止を書面で確認する
なお、受託者側から「仕様どおりであり不具合ではない」と回答されることもあります。その場合は、仕様書や議事録のどこにどう書いてあるかを根拠として確認し、認識が合わないときは第三者(専門家)の意見を聞くことも選択肢です。
保証期間後の修正費用の目安
保証期間が終わった後、あるいは不適合に当たらない修正は、一般に有償になります。費用はシステムの規模や構造、修正の内容で大きく変わりますが、一般的な目安として次のように説明されることが多いです。あくまで目安であり、実際の金額は見積もりで確認してください。
- 軽微な修正(文言変更、表示の調整、小さなバグ修正):数万円〜十数万円程度
- 中規模の修正(画面の改修、帳票の追加、データ連携の調整):数十万円〜が目安
- 保守契約(問い合わせ対応と軽微修正の定額枠付き):月額数万円〜十数万円程度が一般的な範囲
- 緊急対応(夜間・休日の障害復旧):通常より割増になる場合がある
「たまに直す」を都度見積もりで行うか、定額の保守契約にするかは、改修の頻度と、止まったときの業務への影響で判断します。頻繁に修正が必要なら、保守契約のほうが結果的に割安になることもあります。修正が必要になる前に、費用の考え方を発注側から確認しておくと安心です。
よくある質問
納品から半年後に見つかったバグは、無償で直してもらえますか。
契約書の保証期間が半年を超えており、かつそのバグが仕様書の内容と違う(不適合)と言えるなら、無償対応の対象になる可能性があります。契約で期間が短縮されている場合はその定めが優先されるのが一般的です。まず契約書の期間と起算点を確認し、期間内なら速やかに書面で通知してください。
瑕疵担保責任と契約不適合責任は、何が違うのですか。
2020年4月の民法改正で、瑕疵担保責任が契約不適合責任に整理されました。「隠れた瑕疵があるか」ではなく「契約内容に適合しているか」が基準となり、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除という対応が明確になりました。請負の期間制限も、不適合を知った時から1年以内の通知という形になっています。
契約書に保証期間の記載がない場合はどうなりますか。
記載がなければ、民法の定め(請負では不適合を知った時から1年以内の通知など)が基本になると考えられます。ただし、免責や期間の特約がほかの条項に含まれていることもあるため、契約書全体と関連書類を確認し、不明な点は弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
準委任契約(ラボ型開発)でもバグは無償で直してもらえますか。
準委任は成果物の完成を約束する契約ではないため、請負のような契約不適合責任は原則として問題になりません。バグ修正を契約の業務範囲に含めているか、善管注意義務を尽くしていたかが論点になります。無償修正を期待する場合は、契約書にその旨を明記しておくことが重要です。
新しいOSやブラウザに対応できなくなったのは、無償対応の対象ですか。
納品後に登場した新しい環境への対応は、納品時点の契約内容に反するものではないため、不適合と扱われにくく、有償になることが一般的です。ただし、保守契約に「バージョンアップ対応」が含まれている場合や、動作環境を契約で定めている場合は、その範囲で対応してもらえることがあります。
無償対応を断られたら、どうすればよいですか。
まず、断られた理由(仕様どおり、期間経過、免責など)を書面で確認し、契約書や仕様書、議事録の記載と照らして根拠を整理します。それでも合意できない場合は、第三者による技術的な検証や、弁護士・紛争解決機関への相談が選択肢になります。早めに記録を整えることが重要です。
まとめと注意事項
納品後のバグが無償で直るかどうかは、「契約の種類(請負か準委任か)」「契約内容との不適合か」「保証期間や免責の範囲内か」という3つの視点で整理できます。2020年の民法改正で瑕疵担保責任は契約不適合責任へと変わり、請負では不適合を知った時から1年以内の通知が基本となりましたが、期間は契約で変更できるため、実際には契約書の記載が最優先になります。署名前に、期間と起算点、通知方法、免責、損害賠償の上限を確認し、仕様は書面に残すことが、納品後のトラブルを避ける近道です。納品前の確認については検収の進め方も参考にしてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。個別の契約内容の解釈や、実際の紛争に関する判断については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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