UPS(無停電電源装置)の選び方と費用 — 停電・瞬停から守る
停電や瞬停でNAS・サーバーのデータが壊れる前に。UPS導入費用の目安(小型1.5〜4万円、NAS向け3〜10万円)、正弦波と矩形波の違い、容量の選び方、自動シャットダウンの設定、規模別の費用、落雷対策をIT担当がいない中小企業向けに、やさしく丁寧に解説する。年1回のテスト方法とチェックリストも付ける。
オフィスの停電対策は、まずNAS・サーバー・ネットワーク機器の3つに小型のUPS(無停電電源装置)を付けることから始めるのが現実的である。費用の目安は、小型UPS1台で1.5〜4万円、NAS・サーバー向けの上位機種で3〜10万円、ラック型で10〜30万円以上である。バッテリーは2〜5年ごとの交換が必要で、1回あたり数千円〜数万円かかる(いずれも目安)。UPSの役割は、長時間動かし続けることではなく、停電した瞬間にデータを壊さず、安全にシャットダウンする時間を稼ぐことにある。
「うちは停電なんて滅多にないから」と考える会社は多い。しかし実際に怖いのは、数時間の停電よりも、一瞬だけ電気が途切れる「瞬停」や、落雷による電圧の乱れである。ほんの一瞬でも、書き込み中のNASやサーバーは壊れることがある。この記事では、IT担当者がいない会社でも判断できるように、守る優先順位、UPSの種類と選び方、容量の計算、自動シャットダウンの設定、規模別の費用、落雷対策、日々の運用までを整理する。停電を含む事業継続の考え方は事業継続のIT対策(IT-BCP)にまとめている。
なぜ停電・瞬停がオフィスで問題になるのか
パソコンやNASは、電気が突然切れると、書き込み途中のデータを失う。壊れ方は機器によって違うが、中小企業で起こりやすいのは次のようなものである。
- NASのファイルやRAIDが壊れる: 書き込み中に電源が落ちると、ファイルが破損したり、RAID(複数のディスクで冗長化する仕組み)の整合性が崩れて再構築に何時間もかかったりする。最悪の場合、共有フォルダが開けなくなる
- サーバーやデータベースが起動しなくなる: 業務ソフトや会計ソフトのデータベースが書き込み中に止まると、次の起動時に修復が必要になることがある
- ルーター・ONU・スイッチが再起動する: 数分間ネットワークが使えなくなり、クラウドサービスや電話(IP電話)も止まる。復旧後に設定が飛ぶ機器もある
- パソコンの作業中データが消える: ノートパソコンはバッテリーがあるため影響が小さいが、デスクトップパソコンは保存していない作業が失われる
さらに、停電から復旧する瞬間には、電圧が不安定になったり、大きな電流が流れたりして、機器にダメージを与えることもある。「止まる」ことより「壊れる」ことが本当の被害である。壊れたデータの復旧は、バックアップがなければ難しい。バックアップの考え方は社内データのバックアップ方法と費用で詳しく説明している。UPSは、バックアップの代わりではなく、バックアップが必要になる事故を減らす装置だと考えるとよい。
まず何を守るか:優先順位の付け方
すべての機器にUPSを付けると費用がかさむ。次の順番で、データが壊れやすく、止まると影響が大きいものから守るのがよい。
| 優先度 | 機器 | 守る理由 | 目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | NAS・ファイルサーバー・業務サーバー | 書き込み中の停止でデータやRAIDが壊れる。全社員に影響する | 必須に近い |
| 2 | ONU・ルーター・UTM・スイッチ・Wi-Fi親機 | 瞬停で再起動し、ネットワーク全体が数分止まる | 強く推奨 |
| 3 | 複合機・IP電話の主装置 | 再起動で設定や通信が不安定になることがある | 必要に応じて |
| 4 | デスクトップパソコン | 保存前のデータが消える。台数が多いと費用がかさむ | 重要な業務用のみ |
| 5 | ノートパソコン | 内蔵バッテリーがあり、通常は不要 | 不要 |
実務では、NASとネットワーク機器を1台の小型UPSにまとめてつなぐ構成が最も費用対効果が高い。社員全員のデスクトップパソコンまで守る必要は、多くの場合ない。パソコンのデータはNASやクラウドに保存するルールにしておけば、パソコン側の瞬停の被害は小さく抑えられる。UTMなどのセキュリティ機器の位置づけはUTM・ファイアウォールの費用で説明している。
UPSの種類と違い
UPSには大きく3つの方式がある。名前は難しいが、違いは「電気をどのくらい丁寧に整えるか」と「価格」である。
| 方式 | 仕組み(かんたん) | 価格の目安 | 向いている機器 |
|---|---|---|---|
| 常時商用給電方式 | 普段は壁の電気をそのまま通し、停電時にバッテリーへ切り替える | 安い(1〜3万円台) | 家庭用PC、ルーターなど |
| ラインインタラクティブ方式 | 電圧の高低を自動で補正しつつ、停電時に切り替える | 中程度(2〜10万円) | NAS、小規模サーバー、ネットワーク機器 |
| 常時インバータ給電方式 | 常にバッテリー経由で安定した電気を送る。切り替えの瞬断がない | 高い(10万円〜) | 重要サーバー、医療・製造などの精密機器 |
中小企業のオフィスでは、ラインインタラクティブ方式で十分なことが大半である。常時インバータ方式は安心感が高いが、価格も大きさも大きくなる。止まると大きな損害が出る基幹サーバーがある場合に検討すれば足りる。
矩形波と正弦波:NAS・サーバーなら正弦波を選ぶ
UPSがバッテリーで動いているとき、出力する電気の波形には「矩形波(四角い波)」と「正弦波(なめらかな波)」の2種類がある。安価なUPSは矩形波のものがあり、これは家庭用のパソコンなどでは動くが、機器によっては相性が悪い。
- 正弦波: 壁のコンセントと同じ形の電気。NAS、サーバー、力率補正(PFC)付きの電源を持つ機器でも安定して動く。NASやサーバーにつなぐなら正弦波を選ぶ
- 矩形波: 安価だが、機器が動かなかったり、異音が出たり、電源が落ちたりすることがある。簡単な機器向けと考える
製品の仕様に「正弦波」または「Pure Sine Wave」と書かれているかを必ず確認する。説明書に「サーバー・NAS対応」とあれば、基本的に正弦波である。購入前に、つなぐ機器のメーカーが動作確認済みのUPSを公開していないかも調べるとよい。
容量の選び方:VAとWの計算
UPSの容量は「VA(ボルトアンペア)」と「W(ワット)」の2つで表される。大切なのは、つなぐ機器の消費電力の合計が、UPSのW値の範囲に収まっていることである。VA値だけを見て選ぶと、足りなくなることがある。
- 手順1: つなぐ機器の消費電力(W)を調べる。本体の銘板や説明書、メーカーのサイトに書いてある。NASなら30〜60W程度、ルーターやONUは各10〜20W程度が目安
- 手順2: 合計を出す。例:NAS 50W + ルーター 15W + ONU 10W + スイッチ 15W = 90W
- 手順3: 余裕を持たせる。合計の1.3〜1.5倍を目安にして、この例なら120〜135W以上
- 手順4: UPSの定格出力(W)がそれを上回る機種を選ぶ。VA値は、Wの1.5〜1.7倍程度のことが多い(力率による)
運転時間(バッテリーで何分動くか)は、「長いほど良い」ものではない。目的は、停電時に機器を自動で安全にシャットダウンする5〜10分を確保することである。たとえば、半日停電しても仕事を続けたいなら、UPSではなく発電機や大型の蓄電池が必要になり、費用の桁が変わる。中小企業では、シャットダウンまでの時間が取れれば十分なことが多い。メーカーの資料にある「バックアップ時間」の表で、自社の合計Wのときに何分動くかを確認する。
自動シャットダウンの連携が本当の価値
UPSを付けただけでは、バッテリーが切れた瞬間に結局は電源が落ちる。停電を検知して、機器が自動で電源を落とす仕組み(自動シャットダウン連携)まで設定してはじめて、UPSは役に立つ。夜間や休日の停電では、人が操作できないからである。

- USB接続: UPSとNASやサーバーをUSBケーブルでつなぐ。多くのNASは、USB接続のUPSを認識して、停電時に自動でシャットダウンできる。最も簡単で一般的な方法
- ネットワークカード(SNMP等): UPSにLAN接続用のカードを追加し、ネットワーク経由で複数台の機器に停電を知らせる。サーバーが複数ある場合や、ラック型で使う
- 付属ソフト: Windowsのパソコンやサーバーは、UPSのメーカーが提供する専用ソフトで、停電時に自動でシャットダウンできる
NASの場合は、管理画面で「UPS」の設定項目を探し、「UPSを有効にする」「バッテリー残量が少なくなったらシャットダウンする」「停電後に何分でシャットダウンするか」を設定する。UPSをつないだNASが1台のとき、USB接続の「本体」として設定する。複数台で同じUPSを共有する場合は、1台目を本体、2台目以降をネットワーク経由の参照側にする。設定後は、必ず実際にUPSの電源プラグを抜いて、正しくシャットダウンされるかを試す。
もう一つ大切なのは、シャットダウンまでの待ち時間の設定である。待ち時間が長すぎると、バッテリーが先に切れてしまう。短い瞬停のたびにシャットダウンしてしまうのも不便なので、「停電から3〜5分たったらシャットダウン開始」のように、バッテリーの持ち時間に余裕を残して決める。
費用の目安:規模別・構成別
次の表は、UPS導入にかかる費用の目安である。製品や機種、構成によって大きく変わるため、あくまで目安として参考にしてほしい。
| 区分 | 価格帯の目安 | 守れる機器の例 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 小型UPS(常時商用・矩形波中心) | 1.5〜4万円 | ルーター、ONU、小型の機器 | 家庭向け・簡易用途 |
| NAS・小規模サーバー向け(正弦波) | 3〜10万円 | NAS、ネットワーク機器一式 | 中小企業の主力 |
| タワー型・大容量 | 8〜20万円 | サーバー1〜2台+ネットワーク機器 | 運転時間を長めに |
| ラック型 | 10〜30万円以上 | サーバー、UTM、スイッチ | サーバーラックがある場合 |
| バッテリー交換 | 数千円〜数万円 | 同上 | 2〜5年ごと、機種による |
会社の規模別に、現実的な構成と費用の目安を示す。
| 規模 | 守る機器 | 構成の例 | 導入費用の目安 |
|---|---|---|---|
| 社員5名 | NAS1台、ルーター、ONU | 正弦波の小型UPS 1台 | 3〜6万円 |
| 社員20名 | NAS、ルーター、UTM、スイッチ | 正弦波UPS 1〜2台(NAS用とネットワーク用に分ける場合もある) | 6〜20万円 |
| 社員50名 | サーバー複数、NAS、UTM、スイッチ、Wi-Fi親機 | ラック型または大容量UPS+ネットワークカード | 20〜60万円 |
バッテリーは消耗品で、機種や使用環境によるが2〜5年ごとの交換が目安になる。導入費用だけでなく、5年間の総額で考えることが大切である。たとえば導入5万円のUPSで、3年目にバッテリー交換に1万円かかるなら、5年間で6万円程度という計算になる。NASの購入費用と合わせた総額はNASファイルサーバーの費用も参考になる。
費用で迷ったときは、「止まったときに、どれだけ困るか」を金額に置き換えてみるとよい。NASが壊れてデータの復旧に数日かかれば、その間の人件費や機会損失は、UPSの費用をはるかに超えることが多い。UPSは保険であり、安く導入できる対策のひとつである。
落雷・サージ対策:雷は電源線以外からも来る
落雷の被害は、停電とは別の問題である。近くに雷が落ちると、電線や通信線を通じて、非常に高い電圧(サージ)が一瞬だけ流れ込み、機器の基板を壊す。雷サージはコンセントだけでなく、LANケーブル、電話線、光回線の機器、アンテナ線などからも入ってくる。
- 電源側の対策: 雷サージ対応のテーブルタップ(数千円〜)や、UPS自体のサージ保護機能を使う。ただし、安価なテーブルタップのサージ保護は、強い雷には耐えられないことがある
- LAN・電話線側の対策: 建物の外とつながるLANケーブルや電話線には、LAN用のサージ保護装置(SPD)を入れる。屋外にケーブルが出ている拠点間接続や、屋外のカメラなどで特に重要
- 配線の工夫: 電源とLANを別々のタップでつなぐと、サージの逃げ道が分かれて被害が広がることがある。同じ保護機能のある機器にまとめる
雷の多い季節(夏場)の前に、重要な機器の配線を見直す。雷が近いときは、機器の電源プラグとLANケーブルの両方を抜くのが最も確実な方法だが、業務時間中は現実的でないことが多い。落雷が心配な地域や、屋外に配線が出ている建物では、保険(動産総合保険など)の補償範囲も確認しておくとよい。雷による機器故障が補償されるかどうかは、契約内容で変わる。
運用:導入したあとにやること
UPSは付けて終わりではない。バッテリーが劣化していると、いざという時に数十秒しか持たないことがある。次のポイントを運用に組み込む。
- バッテリーの交換時期: 2〜5年(機種により異なる)を目安にし、購入日をUPSに貼る。管理画面やランプで「バッテリー交換」の警告が出たら、早めに交換する。高温の場所に置くと寿命が短くなる
- 年1回のテスト: 就業時間外にUPSの電源プラグを抜き、機器が動き続けるか、自動シャットダウンが働くかを確認する。メーカーのテスト機能(自己診断ボタン)も使う
- 置き場所: 風通しの良い場所に置く。床に直接置くと、水や埃の影響を受けやすい。NASやサーバーの近くに置くとケーブルが短く済む
- つなぐ機器の管理: あとから機器を足すと容量不足になる。ヒーターや掃除機、レーザープリンターなど消費電力の大きな機器はつながない
ビルの法定停電(電気設備点検)の前にやること
賃貸ビルの入居者は、年に1回程度、建物の電気設備の法定点検による計画停電を経験する。これは停電が事前にわかる貴重な機会であり、UPSのバッテリーでは足りない長時間の停止になる。事前に次の手順を決めておく。
- 管理会社から日時の通知を受けたら、停電の前日までに、NAS・サーバーを手動でシャットダウンする手順を決めて担当者を決める
- 停電当日の朝または前日夜に、NAS・サーバーの電源を落とす。UPSの電源も切る(つけたままだとバッテリーが切れるまで動き続け、最終的に不正な停止になる)
- 通電後は、ネットワーク機器 → NAS・サーバー → パソコンの順に電源を入れる
- 復旧後、共有フォルダが開けるか、業務ソフトが動くか、バックアップが正常に動いているかを確認する
この手順は紙1枚にして、NASやサーバーの近くに貼っておくと、担当者が不在でも他の人が対応できる。手順書がないと、停電のたびに電源を入れる順番で混乱する会社は意外に多い。
よくある失敗と注意点
- 容量不足で導入した: 後から機器を足して、定格出力を超えてしまう。停電時にUPSがすぐ落ちるか、過負荷の警告が出る
- 自動シャットダウンを設定していない: UPSをつないだだけで、バッテリーが切れた瞬間に結局は突然電源が落ちる
- バッテリーを放置している: 5年以上交換せず、いざという時に数十秒しか持たない。購入日が分からなくなっている
- プリンターや暖房機器をつないだ: 起動時に大きな電力を使う機器をつなぐと、過負荷でUPSが止まる
- 延長タップを何段もつないだ: 発熱や接触不良の原因になる。UPSの出力口の数が足りなければ、機器を絞るか台数を分ける
どれも、導入時に少し確認し、年1回の点検をするだけで防げるものである。「買ったけれど、いざという時に動かなかった」という失敗の多くは、容量・設定・バッテリーのいずれかが原因である。担当者が変わっても引き継げるように、UPSの型番、購入日、つないでいる機器、シャットダウンの設定値を一枚のメモにして、NASの近くに置いておくとよい。
導入前後のチェックリスト
- 守る機器の優先順位を決めた(NAS・サーバー → ネットワーク機器 → 重要なパソコン)
- つなぐ機器の消費電力(W)を調べ、合計に1.3〜1.5倍の余裕を持たせた
- NAS・サーバー向けには正弦波のUPSを選んだ
- UPSの定格出力(W)が、必要な合計を上回っている
- USBケーブルなどで、UPSとNAS・サーバーをつなぎ、自動シャットダウンを設定した
- UPSの電源プラグを抜いて、自動シャットダウンが動くことを確認した
- 購入日を記録し、バッテリーの交換時期(2〜5年)を決めた
- 年1回の動作テストの日を、カレンダーに入れた
- 雷サージ対応のタップやLANのサージ保護を検討した
- ビルの法定停電の連絡を受けたときの手順書を作った
- データのバックアップ(社外・別媒体)が取れていることも確認した
よくある質問
UPSがあれば、停電中も仕事を続けられますか。
できません。一般的な小型UPSのバッテリーは、数分から十数分程度しか持ちません。目的は、仕事を続けることではなく、NASやサーバーを安全にシャットダウンして、データを守ることです。停電中も仕事を続けたい場合は、大容量の蓄電池や発電機が必要で、費用も大きく変わります。
家庭用のUPSを、会社のNASに使っても大丈夫ですか。
機種によっては動作しますが、NASやサーバーには正弦波出力で、容量に余裕があるUPSをおすすめします。矩形波のUPSでは、機器が正しく動かなかったり、停電時に電源が落ちたりすることがあります。購入前に、NASメーカーの対応機種一覧や、仕様の出力波形を確認してください。
ノートパソコンにもUPSは必要ですか。
通常は必要ありません。ノートパソコンは内蔵バッテリーがあるため、停電しても動き続けます。ただし、ノートパソコンにつないだ外付けHDDや、ルーター・NASなどのネットワーク機器は止まるため、そちらを守るほうが重要です。
UPSのバッテリーは、どのくらいで交換が必要ですか。
機種や使用環境によりますが、2〜5年が目安です。高温の場所では寿命が短くなります。交換費用は数千円から数万円程度で、本体ごと買い替えるより安く済むことが多いです。管理画面やランプの警告が出たら、早めに交換してください。
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